労務経営ブログ
厚生労働省が発表した「令和5年度使用者による障害者虐待の状況等」に関する報告
今回は厚生労働省が発表した「令和5年度使用者による障害者虐待の状況等」に関する報告について概要と障害者雇用をサポートしている現状をまとめてみました。これによると障害者虐待に関する通報や届出、そして実際に虐待が認められたケースが前年と比較して増加しており、特に「経済的虐待」が最も多いという結果が示されています。
【調査結果の概要】
1. 通報・届出の増加
通報・届出のあった事業所数は1,512件(前年比22.9%増)、対象となった障害者数は1,854人(前年比29.4%増)と大幅に増加。
2. 虐待が認められたケースの増加
虐待が認められた事業所は447件(前年比4.0%増)、虐待が認められた障害者は761人(前年比16.0%増)。
3. 虐待の種別
経済的虐待が全体の80.6%を占めて最も多く、次いで心理的虐待(8.7%)、放置等による虐待(5.1%)などが続く。
虐待の事例としては、作業用具を投げつけられるなどの心理的虐待、賃金不払いといった経済的虐待、さらには性的虐待などが挙げられています。報告では、これらの虐待に対して労働局が適切な指導や措置を講じていることが記されています。
〇障害者雇用義務のある企業で多く見られる問題意識とは?
障害者雇用において企業が配慮不足や偏見に基づいた対応を行うことで、様々な問題が生じています。令和5年度の報告書によると、特に「経済的虐待」が目立つ形で増加しており、最低賃金以下の給与を支払ったり、賃金を不当に減額するなどの事例が多く報告されています。また心理的虐待や放置による虐待も無視できない割合を占めています。このような虐待は、単に法的な問題にとどまらず、職場環境の悪化や障害者の労働意欲の低下、精神的な健康への悪影響を及ぼす重大な問題に繋がります。
さらに企業側の誤解や思い込みも問題の一因となっている要因となります。「障害者は使えない」という先入観や「合理的な配慮が不要」といった誤った認識は、企業にとってリスクが大きくなります。これにより法令違反や評判の低下だけでなく、労働力の喪失や従業員のモチベーション低下を引き起こす可能性があります。障害者雇用の進展には、企業が正しい理解と配慮を持つことが不可欠なのです。
障害者が働きやすい職場を提供することは、社会的責任を果たすだけでなく組織としての成長にも繋がります。しかし現実には、多くの企業がこうした配慮を怠っており、それが虐待事例の増加に結びついています。
〇この問題を放置するリスク
この問題を今のまま放っておくとどうなるでしょうか?障害者への配慮不足や偏見に基づく対応を続けている企業には、さまざまなリスクが降りかかることになります。まず障害者に対する経済的虐待や心理的虐待は、職場内のモチベーションを大きく低下させる要因となります。障害者が安心して働ける環境を提供しない企業では、従業員全体の士気も下がり、生産性の低下につながる可能性が高ります。特に人間関係や職場環境が原因で退職する従業員が増えた場合、その穴を埋めるために新たな採用や教育に多大なコストがかかるのは避けられません。
さらに障害者雇用における法的トラブルも無視できません。報告書で述べられている通り、障害者への経済的虐待や不当な対応が明らかになれば、労働局による是正指導や罰則が待っています。最低賃金を下回る給与の支払い、休憩時間の不適切な管理、職場でのパワーハラスメントや心理的な圧力など、これらは企業に対する信頼を一瞬で失わせるだけでなく、社会的な評価を大きく損なう原因となり、特にSNSやメディアが発達した現代ではひとたび不祥事が発覚すれば、企業の評判は瞬く間に広まりその回復には長い時間と大きなコストがかかることでしょう。
「障害者は使えない」という誤解もまた危険です。障害者は労働力の一部として非常に貴重な存在となります。彼らが持つスキルや視点は、組織に新しい風を吹き込み、多様性をもたらします。しかし障害者が十分に活躍できる環境を整えないことで、企業はその可能性を自ら閉ざしてしまっているのです。障害者雇用は単純作業や補助的な業務となっている現状や、自社の業務と関係ない農園作業などの外部委託作業は、その結果で発生しているということを忘れてはいけません。適切な配慮がなされず、不当な扱いを受ける障害者は当然ながら退職を選ぶ可能性が高く、その結果、企業は貴重な人材を失うだけでなく社会的な責任を果たしていないというイメージをも持たれかねません。
さらに障害者への虐待が企業内部で常態化すると、障害者に対するサポートが十分に行われていないという事実が表面化し、それが大きな問題に発展します。行政機関からの監査や調査の対象となり、対応に追われるだけでなく社内の風土そのものが「問題のある組織」として外部に認識される危険性があります。企業の価値や評判は決して無視できるものではありません。これが一度損なわれると、再構築するのは非常に困難で将来的なビジネスチャンスの損失にもつながるのです。
私たちが目指すべきは障害者が職場で最大限に能力を発揮し、企業とともに成長できる環境を整えることです。障害者が心地よく働ける職場環境は、障害者だけでなく全従業員にとっても理想的な職場となるでしょう。そしてこれは少子高齢化により労働人口が急激減少する日本社会において、高齢者・女性の社会進出にも繋がる考えの一旦となるのです。そしてそうした環境を提供する企業こそが、長期的に見て成長し、持続可能なビジネスを築いていくことができるのです。