労務経営ブログ
ジョブ型雇用とは新しい評価基準なのか?
ジョブ型雇用が注目される中、多くの企業が「新しい評価制度」として捉えていることには大きな問題があります。ジョブ型雇用は単なる人材の評価方法を変えるだけでなく、企業全体の組織運営や人材戦略に深く影響を与えるものです。しかしこれを評価制度の一部と捉えるだけでは、組織としての本質的な改革に繋がらず、むしろ企業の人事力を弱体化させるリスクがあります。たとえば、単に専門家を採用して終わり、という短絡的なアプローチでは、チームや組織全体の一体感が失われ、社内の連携やコミュニケーションが弱まる可能性が高いです。
従来の日本企業において主流であった「メンバーシップ型」は、社員が広範な業務をこなし、組織全体で補い合うことを前提としていました。これに対しジョブ型雇用は特定の役割や専門性に応じた配置を行うため、組織全体の「丸さ」ではなく、個々の「尖り」を強調します。しかしこの尖りを組織全体の力に変えるには、戦略的な運用が不可欠です。ジョブ型導入を評価制度の一部と考え、単に「専門性のある人材を揃えればよい」と安易に進めると、部門間の連携が取れなくなり各部署が孤立する危険性があります。
さらにジョブ型の導入が進むことで、人材の流動性が高まるという問題も浮上します。専門家としてのスキルや経験を重視するジョブ型では、社員が特定のスキルを磨いて他社へ移りやすくなり、結果として企業に長く定着する社員が減少する可能性が高いです。これにより採用や人材育成にかかるコストが増大し、企業の競争力が低下するという悪循環に陥る危険があります。特に専門職が流動的になると、企業内で知識の蓄積やノウハウの共有が行われにくくなり、組織としての成長が鈍化する恐れもあります。
最も深刻な問題は、ジョブ型の導入が「ただの流行」や「新しい形式」として軽視され、本来求められる組織的な準備や体制の整備が十分になされないまま進められることです。企業がジョブ型を取り入れる際には、部門ごとの役割や責任の明確化、従業員の評価基準の再設計、さらには部門横断的なコミュニケーションの促進といった取り組みが必要不可欠です。これらが不十分なままでは、ジョブ型のメリットを活かせず、逆に組織の分断や人材の流出といった問題を加速させる結果になりかねません。
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このままジョブ型を単なる評価制度の一環として捉え続けるなら、企業が抱える人材の課題はますます深刻化するでしょう。特にスペシャリストの採用に力を入れたとしても、その人材が社内で孤立してしまったり、部署間の連携がうまく取れなくなったりするリスクは高まる一方です。例えば特定の分野で卓越した能力を持つ社員を採用しても、その専門性が社内全体の力に結びつかず、組織の歯車としてうまく機能しないことがあります。それどころか、個々の人材が自分の仕事だけに集中してしまい、チームとしての結束力が弱まり、結果として企業の競争力そのものが低下する危険性も否めません。
またジョブ型が進むことによって人材の流動化が加速するという現象も、見逃せない大きな課題です。ジョブ型では、従来のように会社全体の成長や社内のキャリアパスを見据えた人材育成ではなく、短期的に成果を上げるために特定の役割に即した人材を重視します。その結果、専門性の高い人材はより良い条件を求めて他社に移りやすくなり、企業に長く定着する人材が減少する可能性が出てきます。こうした人材の流動化が進むことで、採用や人材育成にかかるコストが増大し、企業の人事力はますます低下していくでしょう。
さらにジョブ型雇用を導入しても、それに見合った組織内の体制整備がされていない場合、人材の定着率が下がるばかりか、優秀な人材を採用してもその能力を十分に発揮できないまま退職に至るケースも考えられます。特に中堅・大企業では、社内の仕組みがすぐに変わることは難しく、部署間のコミュニケーションや協力体制の強化が追いつかないことが多いです。ジョブ型に対応するためには、企業全体としてのまとまりを意識した経営戦略が欠かせません。
〇ジョブ型雇用導入のポイント
このような課題を乗り越えるためには、ジョブ型雇用を単なる評価制度や専門家の採用手段としてではなく、組織全体の戦略的な再構築と位置づけることが重要です。ジョブ型を成功させるための解決策は、主に以下の3つのポイントに集約されます。
第一に、ジョブ型に基づいた明確な職務設計が必要です。企業は各ポジションの責任範囲や成果目標を詳細に定義し、それに適したスキルを持つ人材を配置することが求められます。単に「スペシャリストを雇う」というだけでは不十分で、採用する人材が組織全体にどのように貢献し、他の部門との連携をどう図るかをあらかじめ設計しておく必要があります。特に中堅・大企業では部門間の連携が欠かせないため、専門家同士が協力し合い、大きな成果を生み出せるような体制づくりが不可欠です。
第二に、ジョブ型を導入する際には、既存の組織文化やコミュニケーション体制の見直しが不可避です。日本の企業文化は、従来のメンバーシップ型を基盤にしており、社員が一丸となって長期的な関係を築くことを重視してきました。しかしジョブ型では短期的に成果を求めるため、個々の仕事の成果がダイレクトに評価されます。この変化に対応するためには、チームの協力体制を強化し、部門を超えた横断的なコミュニケーションを促進する仕組みが必要です。ジョブ型の人材が自分の役割だけに閉じこもるのではなく、組織全体での価値創造にどう貢献できるかを意識させる環境づくりが求められます。
第三に、長期的な視点での人材育成プログラムの整備が不可欠です。ジョブ型が進むことで、短期的な結果を求める採用や評価が重視される一方で、社内での人材育成がおろそかになるリスクがあります。これを防ぐためには、ジョブ型雇用の下でも社員のキャリアパスを明確にし成長の機会を提供することが重要です。専門的なスキルを持つ人材が、単にそのスキルだけを発揮するのではなく、会社全体の成長にどう貢献できるかを理解し、長期的に組織に貢献し続ける体制を構築することが不可欠です。
最後にこうした解決策を実行に移すには、専門家のアドバイスや外部の知見を積極的に取り入れることが成功の鍵となります。当事務所では、ジョブ型人材の採用・定着、そして企業全体の組織戦略に関するコンサルティングを提供しており、貴社の課題に対して最適な解決策を提案いたします。