労務経営ブログ

うつ病増加の背景と主体感の関係とは?社労士が語るハラスメント防止策

〇心の健康と職場の課題に迫る
現代社会において、うつ病や不安症などのメンタルヘルスの問題はますます増加しています。特に日本では、働き方改革やワークライフバランスへの注目が高まる一方で、職場でのストレスやハラスメントといった問題が根強く残り、それが従業員の心の健康に深刻な影響を与えている現状があります。こうした課題に対処するには、従来の労働環境の問題点を見直すだけでなく、メンタルヘルスの新しい視点を取り入れる必要があります。その視点の一つが「主体感」、つまり「自分の行動やその結果を自らがコントロールしている」という感覚です。

「主体感」という概念は、心理学や行動科学の分野で注目されている考え方で、心の健康と深い関連があるとされています。主体感が高い人は、自分が人生をコントロールしているという自信を持ちやすく、それが幸福感や満足感を支える重要な要素となっています。一方で、主体感が低い場合には、自分の行動が結果に結びつかないと感じたり、何をしても無駄だという無力感を抱いたりすることがあり、これが不安感や抑うつ状態を引き起こす原因になると考えられています。

この「主体感」の概念に注目したイギリスの研究によれば、職場環境における主体感の欠如が、メンタルヘルスの悪化と強い関連があることがわかっています。特に職場でのハラスメントや過剰な管理は、従業員の主体感を著しく低下させる要因として指摘されています。例えば、仕事の進め方や決定に自分の裁量がまったく与えられない場合、従業員は自分の役割や価値を見失い無力感に陥ることが多いのです。このような状況が長期間続くと、うつ病や不安症といったメンタルヘルスの問題が発症するリスクが高まります。

日本でも同様の課題が見られます。過労死やメンタル不調による休職・退職が社会問題となる中で、職場でのハラスメントや過剰なプレッシャーが従業員に与える影響が注目されています。しかし、これらの問題を解決するための取り組みは、まだ十分に行き届いているとは言えません。多くの企業が、法律で定められた最低限のハラスメント防止策にとどまっており、従業員一人ひとりの主体感を育むような本質的な施策には至っていないことが課題です。

こうした背景の中で、主体感の重要性を職場環境の改善に結びつけたアプローチを提案することには大きな意義があります。従業員が「自分の行動が職場にどう貢献しているのか」を実感できる環境を整えることは、メンタルヘルス対策の新しい方向性として注目されるべきです。さらにこの考えを実践的に広めるためには、管理職や従業員に具体的な知識やスキルを提供する研修やセミナーの場が必要です。特にケースメソッドを活用した実践的な学びは、現場に即した効果的な解決策を生み出すための鍵となるでしょう。メンタルヘルスを守る職場環境を構築し、従業員の幸福感を高めるための第一歩を一緒に踏み出しましょう。

〇主体感が心の健康に及ぼす影響とは
「主体感」という概念をご存じでしょうか?主体感は心理学で「エージェンシー」とも呼ばれ、「自分の行動やその結果を自分がコントロールしている」という感覚を指します。この感覚は心の健康や幸福感、さらには人生の満足感に深く関わっています。最近のイギリスの研究では、この主体感が高い人ほど不安感や抑うつ傾向が少なく、逆に主体感が低い人は、これらのメンタルヘルス問題に悩む可能性が高いことが明らかになりました。

主体感は、心の健康の「基盤」と言える存在です。主体感が高い人は、自分の人生に対してコントロール感を持ちやすく、何か問題が発生したときでも「自分次第で改善できる」という前向きな姿勢を持ちやすい傾向があります。これによりストレスや困難に直面しても、それらを適切に処理しやすくなります。一方で主体感が低い人は、自分の行動や努力がどれほど影響を及ぼしているのかを実感しにくく、無力感や絶望感を感じやすくなります。この状態が長引くと不安や抑うつのリスクが高まり、最終的には心の健康を著しく損なう可能性があります。

イギリスの研究では、職場環境が主体感に与える影響についても注目されています。特にハラスメントや過度な管理体制の下では、従業員の主体感が著しく低下することが指摘されています。たとえば、上司からの過剰な指示や、従業員の意見が全く反映されない環境では、従業員は自分が職場にとって価値のある存在だと感じることが難しくなります。その結果、職場での行動が無意味に思えたり、常に上司や同僚の目を気にするようになり主体感が損なわれるのです。

このような職場環境は、メンタルヘルスの悪化を招く原因にもなります。主体感が失われた従業員は、不安感や抑うつ傾向を抱きやすく、これが業務のパフォーマンス低下や長期的な休職につながるケースも少なくありません。また、主体感の低下はチーム全体の雰囲気にも影響を及ぼします。個人の主体感が低い状態が広がると、職場全体が「指示待ち」や「責任回避」の風潮に陥りやすくなり組織の生産性が著しく低下する恐れがあるのです。

日本では、この主体感の低下がメンタルヘルス問題に拍車をかけていると言えます。特にハラスメントや過労によるメンタル不調は、現代の労働環境において深刻な問題となっています。厚生労働省のデータによると、職場のストレスやハラスメントが原因でメンタルヘルスを損なう従業員は増加の一途をたどっています。しかし、多くの企業が導入しているハラスメント防止策は、法律に準拠した最低限の対応にとどまっており、従業員一人ひとりの心理的な健康や主体感の向上まで考慮されていないことが課題です。

また日本の労働文化に特有の問題も、主体感の低下に影響を与えています。たとえば、「空気を読む」文化や、「上司の指示が絶対」というヒエラルキー型の職場では、従業員が自らの意志で行動し、自分の行動が結果に結びついていると実感する機会が少ない場合があります。こうした環境では、たとえハラスメントがなくとも主体感を育むのが難しいことが多いのです。このような構造的な問題に取り組むことが、メンタルヘルス改善の鍵となります。

この「主体感」とメンタルヘルスの関連性を理解することは、職場環境を改善するうえで非常に重要です。従業員が自分の行動に意味を見いだし、主体的に働ける環境を整えることは、メンタルヘルスの向上だけでなく、組織全体の生産性を高めることにもつながります。特にハラスメント防止策を主体感の向上と結びつけることで、従業員が「自分らしく働ける」職場を実現することが可能になります。

主体感が高まる環境を作るには、単なる規則の制定ではなく、管理職や従業員が主体感の重要性を理解し、実践的に活用できるスキルを身につけることが不可欠です。たとえば、ケースメソッドを活用した研修では、実際の職場で発生し得るシナリオをもとに議論を行い、具体的な解決策を導き出すことができます。このアプローチは、従業員が自分の行動やその影響を実感しやすい場を提供するうえで非常に有効です。

主体感をキーワードにした職場環境の改善は、今後のメンタルヘルス対策において欠かせない視点です。この新しい視点を取り入れたアプローチが、従業員の心の健康と幸福感、さらには組織全体の活性化につながることを期待しています。

〇ハラスメントが主体感を奪う職場の現状
ハラスメントがどのように従業員の主体感を低下させるのか、具体的な職場の事例を挙げながら考えてみましょう。

1. 過剰な管理が生む「無力感」
ある中小企業の営業部門で働くAさんは、上司から「細かい行動報告を1日に5回提出するように」と命じられていました。この指示の背景には、上司の「業績を上げるためには細かい管理が必要だ」という信念がありましたが、Aさんにとっては日々の仕事をこなす合間に報告書を作成することが大きな負担となっていました。さらに、報告内容に対して上司からフィードバックがほとんどなく、「ただ言われた通りに報告しているだけ」という感覚を抱くようになります。
結果として、Aさんは「自分の仕事が評価されていない」「自分の判断や行動が業務に影響を与えていない」と感じるようになり、主体感を失っていきました。この状況が長く続いたことで、Aさんは次第に仕事にやりがいを見いだせなくなり不安感や抑うつ傾向を抱えるようになったのです。

2. 暴言や批判が招く「自己効力感の喪失」
BさんはIT企業で働く若手社員で、企画の提案を行うたびに上司から「こんな内容じゃ通用しない」「一からやり直しだ」と厳しい言葉を浴びせられていました。上司の意図はBさんの成長を促すものでしたが、結果的にBさんは「自分の意見は役に立たない」と感じるようになり自信を失っていきました。
こうした環境では、Bさんは「自分の行動が結果につながっていない」と思い込み、主体感が低下します。さらに何をしても批判されると感じたBさんは、次第に提案や発言を控えるようになり、業務の中で消極的な姿勢を取るようになりました。この「自己効力感の喪失」は従業員にとって重大な心理的負担となり、メンタルヘルスの悪化を引き起こす典型的な例です。

3. 適切なフィードバックがない環境の影響
またハラスメントが明確に表面化していない場合でも、主体感を損なう環境は存在します。例えばCさんが働く職場では、上司が部下に対してほとんど指示や評価を与えず「好きにやってくれ」というスタンスを取っていました。一見すると自由な職場に思えますが、Cさんにとっては「自分が何をしても結果に結びつかない」「自分の仕事がどのように評価されているのかわからない」という状況が続き、次第に仕事への意欲を失っていきました。
適切なフィードバックがない環境は、主体感を損なう原因となります。従業員が自分の行動の意義や結果を感じられない場合、やりがいやモチベーションを失うことが多いのです。このような状況は、ハラスメントが明確に存在しなくても、職場環境が原因で主体感が低下する典型的なケースです。

〇主体感を高める職場改善の具体策
これらの事例からわかるように、ハラスメント防止と主体感の向上は密接に関連しています。では、職場で主体感を高めるためにどのような取り組みが必要なのでしょうか?いくつか具体的な対策を紹介します。

1.フィードバックの質を向上させる
上司や管理職が単なる批判ではなく建設的なフィードバックを行うことで、従業員は「自分の行動が組織に貢献している」と感じやすくなります。たとえば「この部分は改善の余地があるが、ここはよくできている」という具体的なコメントを取り入れることが重要です。

2.従業員の裁量を増やす
仕事の進め方やスケジュールの決定において、従業員に一定の裁量を与えることで主体感を高めることができます。たとえば業務の目標を設定する際に、従業員自身が意見を出し、それを反映させる仕組みを導入するのは効果的です。

3. ケースメソッドを活用した研修の導入
ケースメソッドは、実際の職場で起こりうるシナリオを基に議論を行い、従業員が自分で解決策を導き出す力を養う手法です。このプロセスに参加することで、従業員は「自分の行動が結果に結びつく」という感覚を強化し、主体感を高めることができます。

〇主体感が持つ力
ハラスメントは従業員の主体感を奪い、心の健康を損なう大きな要因です。しかし、適切なフィードバックや裁量権の付与、実践的な研修を通じて、従業員の主体感を取り戻すことが可能です。社会保険労務士法人東京中央エルファロでは、この「主体感を育む職場づくり」を支援することで、メンタルヘルスの改善と組織の活性化に貢献できます。ぜひご相談ください。

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