労務経営ブログ
人事部の真の役割とは?業績貢献に集中するための目標設定法
〇人事部が果たすべき真の目的
人事部門は従業員の管理や労務対応を担う部門だと考えられることが多いですが、真の役割はそれだけにとどまりません。本質的には、組織全体の業績向上に寄与することが求められる部門です。しかし、多くの企業では人事部が目の前の短期的な課題に追われ、本来注力すべき長期的な戦略や施策に時間を割くことができていないのが実情です。この結果、業績への直接的な貢献が見えづらくなり、時には経営陣や現場から「人事部の価値がわからない」といった声が上がることもあります。
ピーター・ドラッカーが提唱した「マネジメントの基本」の中で、人事部のようなスタッフ部門が生産性を高めるには、具体的な目標設定と期限管理が必要不可欠であると述べています。たとえば、「従業員の行動を観察して課題を洗い出す」といった漠然とした目標ではなく、「次の3か月間で従業員のエンゲージメントスコアを改善するための施策を立案し、実施する」といった明確なゴールを設定する必要があります。このように目標を具体化することで、人事部は組織の成果に直結する業務に集中しやすくなります。
一方で、人事部門には短期的な課題も次々と発生します。たとえば組織改革が急務となる場合や、従業員トラブルへの迅速な対応が求められる場合です。こうした短期課題は一時的なプロジェクトとして扱い、解決後はその時間を長期的な戦略のために再配分することが重要です。短期課題に引っ張られて全体的なバランスを失うと、人事部が本来目指すべき成果を得ることは難しくなります。
また、近年では人事部がデータを活用した施策を求められる場面が増えてきています。従業員のエンゲージメント調査や評価データをもとにした分析を行い、その結果をもとに目標を設定することが主流になりつつあります。しかし、ここで重要なのは「分析結果をどう活用するか」という点です。データに基づいて具体的な期限や行動計画を定め、それが業績向上にどうつながるかを明確にすることが求められます。
例えばある企業では人事部が3年に一度、自部門の成果を経営陣に報告する制度を導入しました。この制度の目的は、人事部が組織全体にどれだけ貢献したのかを振り返り、次にどのような施策を取るべきかを明確にすることです。この取り組みにより、人事部門は業務の優先順位を見直す機会を得て、成果を可視化することで経営層からの評価も向上しました。
人事部の真の目的は、従業員の管理や日々の問題解決に終始することではなく、組織の未来を見据えた戦略を描き、それを実現することです。そのためには、目の前の課題を処理しつつも、長期的な目標を見失わないことが必要です。今回は、目標設定と業務の優先順位付けを通じて、人事部が業績に直接貢献するための具体的な方法を解説します。
〇人事部の役割を再定義する必要性
現代のビジネス環境は急速に変化し続けています。テクノロジーの進化やグローバル化に伴う競争激化、労働市場の流動化など、企業が直面する課題はますます複雑化しています。このような状況下で、従来の「管理中心型」の人事部門では、組織の成長を支えることが難しくなっています。単に採用や勤怠管理、労務対応をこなすだけでは、企業が求める人事部の役割を果たすことはできません。むしろ業績に直接貢献し、組織全体を戦略的にサポートすることが求められているのです。
ピーター・ドラッカーは、「スタッフ部門は組織全体の生産性を高める存在でなければならない」と指摘しています。人事部門も例外ではありません。従来のようにバックオフィス的な業務に注力しているだけでは、経営陣や現場から「本当に必要なのか?」と疑問視されることさえあります。一方で人事部門が戦略的なパートナーとして機能し、組織の長期的な成功を支える役割を果たせば、その存在意義は大きく高まります。そのためには短期的な課題対応だけでなく、長期的な視野を持って業務に取り組むことが不可欠です。
人事部門が戦略的パートナーとなるためには、まず「業績貢献」という視点を明確に持つ必要があります。たとえば、「採用プロセスを効率化する」や「従業員満足度を向上させる」といった目標設定は、表面上は正しいように見えますが、これだけでは組織全体の業績にどのように貢献するかが不明確です。具体的には、「採用効率化により、次年度の生産性を向上させる」「従業員満足度を10%向上させ、離職率を5%削減することで、人件費削減と知識の流出防止を実現する」といった形で、業績への影響が測定可能な目標を設定することが重要です。
また、短期的な課題と長期的な課題を切り分けることも大切です。短期的な課題、たとえば組織再編や労務トラブルへの対応などは、迅速かつ的確に処理する必要があります。しかし、こうした課題に追われすぎると、人事部門が本来注力すべき長期的な戦略にリソースを割けなくなります。これは特に、中小企業やリソースが限られた組織で起こりがちな問題です。そのため人事部門の業務を「短期」と「長期」に分け、優先順位を明確にする仕組みを整える必要があります。
具体的な仕組みとして、ある企業では「人事部門の貢献度を定期的に評価する」制度を導入しています。この企業では3年ごとに、人事部門が組織の業績にどのように貢献したかを経営層が直接評価します。これにより人事部門は日々の業務だけでなく、組織全体の目標にどのように寄与しているかを常に意識するようになりました。このような仕組みは、短期的な課題に終始しがちな人事部門の意識を変え、戦略的な取り組みを促進します。
さらに、データを活用した意思決定も重要です。近年ではエンゲージメント調査やパフォーマンスデータを活用し、人事施策の成果を定量化する企業が増えています。これにより人事部門が感覚的な判断に頼るのではなく、データに基づいた科学的なアプローチを採用できるようになりました。しかしデータ活用が目的化してしまい、実際の業績貢献に結びつかないケースも少なくありません。データの収集と分析だけで終わるのではなく、それを具体的なアクションに落とし込み、期限を設定して実行することが成功への鍵となります。
要するに、現代の人事部門は「組織の業績貢献」を軸に再定義されるべき時期に来ています。単なる業務の遂行ではなく、戦略的なビジョンを持ち、短期課題を迅速に処理しながらも長期的な価値を創出するためにリソースを配分する。そのためには、目標設定の具体化と期限管理、そして貢献度を定期的に検証する仕組みを導入することが欠かせません。
こうした取り組みを通じて、人事部門は「管理部門」から「戦略部門」へと進化することが可能です。その結果、経営陣や現場からも評価され、組織全体の成長を支える重要な存在となるでしょう。
〇生産性を高める目標設定の実例
人事部門が業績貢献を果たすためには、具体的で測定可能な目標を設定することが重要です。しかし多くの企業では、目標が曖昧だったり、業績に結びつかないケースが見られます。ここでは、実際に行われた成功事例をもとに、人事部が生産性を高めるための実例を詳しく解説します。
1.目標設定が成功したケース: エンゲージメント改善の具体例
ある中堅企業では、従業員のエンゲージメントスコアが低下していることが課題となっていました。特に入社3年目以降の社員の退職率が高く、知識やスキルが流出している状況でした。この問題を解決するため、人事部は「エンゲージメントスコアを1年以内に15%向上させる」という具体的な目標を設定しました。
この目標を達成するために、次のような施策を実施しました。
①従業員サーベイの導入: エンゲージメントスコアの現状を把握するため、従業員サーベイを実施。これにより、従業員が感じている課題や不満が明確になりました。
②フィードバック文化の強化: 調査結果から「上司からのフィードバック不足」が離職意向の大きな要因であることが判明。そこで、フィードバックを促進する研修を全管理職に実施しました。
③キャリア開発プログラムの導入: 入社3年目以降の社員に対して、キャリア開発プログラムを提供。これにより、将来のキャリアパスが見えないという不満が解消されました。
結果として、1年後にはエンゲージメントスコアが18%向上し、退職率も20%減少するという成果を挙げました。この成功は目標が具体的かつ期限付きで設定されていたこと、さらにデータに基づいて施策を実行したことが大きな要因でした。
2.目標設定が失敗したケース: 漠然とした目標の弊害
一方で、失敗した例もあります。別の企業では「従業員の満足度を向上させる」という目標を掲げていましたが、具体的な数値目標や期限が設定されていませんでした。またどのような施策を実行するかについても、現場任せの状態が続いていました。
結果として、各部署がバラバラの取り組みを行い統一感がなく、組織全体での満足度向上にはつながりませんでした。最終的に「従業員満足度を上げる」という目標の進捗状況も評価できず、現場からも「具体的に何を目指しているのかわからない」という不満が上がる結果に終わりました。このケースでは、目標設定の段階で具体性と測定可能性が欠けていたことが主な失敗要因です。
3.業績貢献度の定期的な検証事例
さらに、目標達成後に成果を検証する仕組みを設けた例もあります。ある製造業の企業では、人事部門が組織全体の生産性向上に貢献しているかを3年に一度評価するプロセスを導入しました。評価基準としては、以下の指標を用いました。
・離職率の推移
・採用プロセスの効率化(採用完了までの期間の短縮など)
・従業員満足度やエンゲージメントスコア
このプロセスにより、人事部門がどれだけ組織に貢献しているかが明確になり、評価結果に基づいて次の3年間の計画が立案されました。この仕組みは人事部門が日々の業務だけでなく、長期的な目標を意識し続ける動機づけとなりました。また経営陣とのコミュニケーションが活性化し、人事部門の重要性がより認識されるようになりました。
以上の実例から、人事部門が生産性を高めるためには以下のポイントが重要であることがわかります。
1. 目標を具体的かつ測定可能に設定すること
2. データに基づき施策を立案し実行すること
3.目標達成後の成果を定期的に検証する仕組みを設けること
人事部門がこれらを実践することで、組織の中での役割をより明確にし、業績に直結する取り組みが可能になります。具体的な目標設定と戦略的な行動計画こそが、人事部門を「管理部門」から「戦略部門」へと進化させるカギです。
〇業績貢献に向けた3つの具体的アプローチ
人事部門が真に組織の業績に貢献するためには、従来の業務を単にこなすだけではなく、戦略的かつ具体的な取り組みが必要です。業績貢献を果たすために有効な3つのアプローチについて詳しく解説します。
1.短期課題と長期課題の明確な切り分け
人事部門が効率よく業績に寄与するには、短期課題と長期課題を切り分け、それぞれに適切なリソースを割り当てることが重要です。短期課題には、例えば次のようなものがあります:
・急な組織再編への対応
・労務トラブルや従業員のクレーム処理
・突発的な採用ニーズへの対応
これらは一時的なプロジェクトとして迅速に処理し、長引かせないことがポイントです。短期課題を迅速に解決することで、リソースを長期課題に振り向ける余裕が生まれます。長期課題には、次のような内容が含まれます:
・人材育成戦略の策定と実施
・エンゲージメントスコアの長期的な向上
・ダイバーシティ&インクルージョン推進のための計画
切り分けを明確にするためのツールとして、プロジェクト管理ツールやガントチャートなどを活用することも有効です。たとえば、年間計画の中で「短期対応のためのバッファ時間」を確保しておくことで、緊急事態にも柔軟に対応できる仕組みを整備できます。
2.具体的な目標設定と期限管理
人事部門の業務の生産性を高めるためには、目標が明確かつ測定可能であることが必須です。「スマートゴール(SMART Goals)」と呼ばれる目標設定のフレームワークを活用することで、効果的な目標を設けることができます。SMARTの各要素は次の通りです
・Specific(具体的): 誰が、何を、どのように行うのかを明確にする。
・Measurable(測定可能): 数値や指標で成果を測れる形にする。
・Achievable(達成可能): 実現可能な目標を設定する。
・Relevant(関連性がある): 組織全体の目標に関連する内容にする。
・Time-bound(期限を設ける): いつまでに達成するのかを明示する。
例えば漠然と「従業員のモチベーションを高める」という目標を立てるのではなく、「半年以内に従業員エンゲージメントスコアを10%向上させる」といった具体的な目標を設定することが重要です。また期限内に目標が達成できるよう、進捗を定期的にレビューする仕組みを設けることも欠かせません。たとえば月次で進捗をチェックするミーティングを設け、遅れが生じた場合には迅速に修正対応を行うことが効果的です。
3.貢献度の定期的な検証と可視化
人事部門の生産性を向上させるには、業績への貢献度を定期的に検証し、その結果を経営層や現場に可視化する取り組みが必要です。具体的には、以下のような指標を活用すると良いでしょう:
・従業員エンゲージメントスコアの推移
・離職率の改善度合い
・採用プロセスの効率化(例:採用完了までの平均期間の短縮)
・研修参加者のスキル向上度やパフォーマンス向上率
これらの指標を使って、人事部がどのように組織に貢献しているのかを定量的に示すことが可能です。さらに貢献度の検証結果を経営会議などで発表することで、人事部門の取り組みが組織全体に認識され、部門の重要性を再評価してもらうことにつながります。
具体例として、ある製造業の企業では「人事部門の貢献評価ミーティング」を年1回実施しています。このミーティングでは、過去1年間の実績をデータで提示し達成度を報告しています。この取り組みによって、経営陣が人事施策に対する投資効果を具体的に把握できるようになり、人事部門の予算拡充や新たなプロジェクトの承認が得られやすくなりました。
これら3つのアプローチを実行するためには、まず現状の業務内容を棚卸しすることから始めましょう。短期課題と長期課題をリスト化し、それぞれの優先順位を整理することで、具体的な目標を設定しやすくなります。また定期的に進捗を振り返る仕組みを作り、常に改善を意識することが重要です。
最終的には、人事部門が業績貢献に直結する活動を行うことで、組織全体の成長を支える存在としての価値を高めることができます。これこそが、人事部門が管理部門から戦略部門へと進化するための第一歩です。
〇人事部門を業績に貢献する部門へ変革する第一歩
人事部門は、単なるバックオフィス業務の遂行に留まるのではなく、組織全体の業績向上に寄与する重要な戦略部門であるべきです。しかしその役割を果たすためには、従来の働き方を見直し、明確な目標設定と計画的な行動が求められます。ここで、そのために必要な3つのアプローチを提案しました。
まず、短期課題と長期課題を明確に切り分けることが重要です。短期的な問題解決にリソースを集中しつつ、長期的な戦略へのリソース配分も確保する仕組みを整えることで、人事部門全体の生産性を向上させることができます。この切り分けが曖昧なままだと、目の前の課題に追われ、長期的な価値創出が後回しになるリスクが高まります。
次に具体的で測定可能な目標を設定し、期限を明確にすることが不可欠です。例えば「離職率を下げる」という抽象的な目標ではなく、「1年以内に離職率を5%削減する」というようなSMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性がある・期限がある)な目標を設定することで、実際に行動に移せる具体策を導き出せます。また定期的に進捗をレビューすることで、目標達成に向けた方向修正を迅速に行うことが可能になります。
さらに、人事部門の業績貢献を定期的に評価し、それを組織全体に可視化する仕組みも重要です。人事施策の成果をデータで示し、経営陣や現場に対してその価値を訴求することで、人事部門の重要性が再認識されます。例えば、従業員エンゲージメントスコアの向上や離職率の低下といった具体的な指標を提示することで、経営陣の信頼を得るだけでなく、今後の施策に必要なリソースの確保にもつながるでしょう。
これらの取り組みを実践することで、人事部門は「管理業務を行う部門」から「組織の業績向上を支える部門」へと進化することができます。その結果、従業員一人ひとりのパフォーマンスが最大化され、組織全体の競争力も向上するでしょう。
しかしこうした変革を成功させるためには、日々の業務の中で優先順位を整理し、戦略的な行動を取る習慣を組織全体に根付かせることが重要です。その第一歩として、現状の業務を棚卸しし、短期課題と長期課題をリスト化する作業を行ってみてください。また目標設定の際には必ず期限を設定し、進捗状況を定期的に振り返る仕組みを導入することをお勧めします。
もし「どのように課題を切り分けるべきか」「目標設定の仕方がわからない」「人事施策が業績に結びついているかの評価方法を知りたい」といった疑問があれば、専門家に相談するのも有効な手段です。私たち社会保険労務士や人事コンサルタントは、貴社の現状を詳細に分析し、最適なソリューションを提案することができます。
最後に、次のステップを明確にするためのアクションを提案します。以下の質問に答える形で、自社の人事部門の課題を整理してみてください:
・現在の人事部門の業務は、短期課題と長期課題のどちらに多くの時間を割いているか?
・設定している目標は、具体的かつ測定可能な形になっているか?
・人事部門の貢献度を定期的に検証する仕組みはあるか?
この問いに答えることで、改善の方向性が見えてくるはずです。そして次のステップに向けた行動計画を立て、実行に移していきましょう。人事部門の真の役割を果たし、組織全体の成長に貢献する部門へと進化させるための旅は今日から始まります。
必要なサポートがあれば、ぜひ私たちにご相談ください。一緒に課題を整理し、具体的な解決策を見つけるお手伝いをさせていただきます。人事部門を業績に貢献する強力な戦略部門に変革するための第一歩を、私たちと一緒に踏み出しましょう。