労務経営ブログ

障害者雇用における「配置転換」が抱える課題

日本企業における「ジョブローテーション」や「配置転換」は、多くの企業で一般的に取り入れられています。これは社員の成長機会を広げ、多様な経験を積ませるための制度ですが、障害者雇用においてはこの仕組みが思わぬ問題を引き起こしています。障害者雇用を進める企業にとって、配置転換がもたらす負担やストレスに対する理解が不足している場合、障害者の早期離職や精神的な負担増加の原因となりかねません。

たとえば一般的な配置転換であっても、部署が変わると新しい業務内容に加え、異なる職場の雰囲気や上司の指導スタイルに適応しなければなりません。特に障害者にとって、このような変化はストレスとなり、環境変化に伴う適応が困難になることが多々あります。配置転換が行われるたびに、精神的な負担や業務適応の難しさが増し、場合によっては辞職を考えざるを得ない状況に陥るケースも少なくありません。

実際に、「配置転換の時期に適切な対応がなされなかった結果、障害者が会社を辞めざるを得なかった」という例は多く報告されています。特に上司が変わるタイミングでの不十分な支援や適応サポートの不足が、障害者が職場で孤立感を抱く原因となることがあります。企業側の理解不足により、障害者が意欲を持って入社したにもかかわらず、数年以内に離職してしまうことも少なくないのです。こうした状況が繰り返されると、「障害者は定着しづらい」という偏見が生まれ、次に雇用を検討する際にも企業側に慎重な姿勢が増す悪循環を招きかねません。

さらに、障害者に限らず多様な人材に対する雇用準備が不十分な企業では、配置転換により女性や高齢者といった他の多様なバックグラウンドを持つ社員に対しても同様の適応課題が生じやすくなります。これは日本の多くの企業が従業員全員に同一の雇用形態や労働規定を適用し、「画一的な成長・配置転換のルール」を前提とする体制に起因しています。この体制においては、障害者をはじめとした多様な社員が「変動に対応できない労働者」とみなされやすくなり、会社側から「使えない社員」というレッテルを貼られてしまう恐れが生まれます。

また企業の中には障害者をはじめとする多様な人材の特性やニーズを十分に理解しないまま、配置転換を行っているケースも見られます。結果として障害者に配慮が欠けた配置転換が行われることで、職場環境の変化に適応できず離職してしまうリスクが高まります。このような問題は、単に障害者だけの課題ではなく企業全体の人事・雇用戦略に深く関わる問題であり、組織としての体制づくりが不十分である場合に顕在化しやすいのです。

加えて配置転換による障害者の早期離職が続くと、企業内では「障害者の採用はリスクが高い」「すぐに辞めてしまう」という偏見が蓄積されることがあります。これは企業がせっかく取り組んだ障害者雇用の長期的な成功を阻む要因となり、企業内に障害者の採用に対する消極的な風潮が生まれる一因ともなります。またこのような現状は企業のダイバーシティ推進や社会的責任にも影響を及ぼし、社外からの信頼や評価の低下にもつながりかねません。

こうした問題に対して、企業は障害者を含む多様な人材が働きやすい柔軟な配置転換の方針を取り入れ、長期的に職場に定着しやすい環境整備を進める必要があります。

〇配置転換のリスクと社員への負担
配置転換が障害者雇用に与える影響は、実際には想像以上に深刻で、多くの企業が適切な対策を取らずに見過ごしています。もしこの状況を放置したままであれば、企業側にとっても大きなデメリットを引き起こす可能性があるのです。新しい環境に適応することは、たとえ障害がない社員にとっても簡単なことではありませんが、障害者にとってはそれが更に大きなストレスとなり、心理的な負担は数倍にもなるでしょう。企業が「成長の機会」として導入しているジョブローテーションや配置転換が、障害者の方にとっては「耐えがたい負担」となっていることに気づかない限り、優秀な人材の早期離職や雇用管理の悪化という問題は絶えず発生するでしょう。

私が実際に関わったケースでも、配置転換のタイミングで職場環境が大きく変わったことで、期待を持って入社した障害者の方が数か月以内に辞めざるを得なくなった例は少なくありません。特に上司が変わることで職場の雰囲気や方針が一変することは、障害者の方にとっては「新しい業務を覚えること以上に困難」な適応の一環となることもあります。上司によっては、障害への理解が不足しているケースもあり、コミュニケーションがうまくいかないことが離職の引き金になりかねません。

さらにこのような離職が積み重なると、企業内では「障害者は定着しにくい」「すぐに辞めてしまう」といった偏見や固定観念が形成されがちです。すると、次に障害者の採用を検討する際も「どうせまたすぐ辞めるのではないか」との先入観から、積極的に雇用に取り組むことが難しくなり、雇用全体が停滞するという悪循環に陥ってしまうのです。実際に「障害者雇用は手間がかかる」「どうせ長続きしない」といった声を耳にすることもありますが、それは環境や対応策が適切でないことが原因であって障害者の方が「使えない人材」ということでは決してありません。現状、雇用制度が障害者をはじめ、多様な人材のニーズに十分に応えていないことが根本的な問題であり、こうした状況が改善されない限り、企業は適切な人材の確保や活用に悩まされ続けることになるでしょう。

また障害者雇用がうまくいっていないことは、企業の社会的責任やイメージにも少なからず影響を与えます。昨今、企業の「ダイバーシティ推進」が注目を集めていますが、配置転換や職場環境の変化で不適切な対応が続くと、内部での障害者離職率が高くなるだけでなく、「雇用する姿勢は見せているが、実際には長期雇用や育成がなされていない」という印象を社会に与えかねません。これが悪影響を及ぼすのは、社内だけでなく、社会全体での信頼や評価にも直結してきます。結果的に、企業のイメージダウンや評判の悪化につながるリスクがあるということを経営者や人事担当者は意識しなければなりません。

障害者雇用を進めている企業は、より長期的かつ戦略的な視点で社員が安心して働ける環境づくりを意識しなければなりません。単に採用を増やすことや雇用率を確保するだけではなく、環境整備や管理職の理解促進、配置転換の見直しが急務です。

障害者が安定して働ける環境を整えることは、企業にとっても労働力の安定や職場の多様性向上につながる重要な投資です。これから障害者雇用を進めようとする企業も、すでに取り組んでいる企業も、配置転換に関する不安や課題があれば、ぜひ一度東京中央エルファロたちにご相談ください。

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