労務経営ブログ
障害者雇用に対する企業の誤解と不安
障害者雇用に取り組もうとする際、多くの企業が抱えるのは「本当にうまくいくのだろうか」という漠然とした不安です。
特に、
「障害者雇用=特別な負担」
「特別な配慮が求められる」
「トラブルが起きたらどうしよう」
といったイメージを持つ企業担当者や経営者は少なくありません。
実際、障害者雇用促進法によって法定雇用率が定められており、従業員43.0人以上の企業には障害者雇用の義務があります。この義務に対応しなければならないというプレッシャーから、「義務だから仕方なく」という受動的な意識で取り組みを始めるケースも散見されます。しかし、このようなスタートを切った場合、採用活動や配慮対応に対して過度なストレスを感じることになりやすく、結果として「障害者雇用は重荷だ」という印象が強まってしまうのです。
また、
「障害者雇用には特別な知識や経験が必要」
「うちの業務には障害者ができる仕事がない」
と考える企業も多く存在します。
しかし、実際には軽作業、書類整理、データ入力、清掃業務など、障害の程度や種類に応じて十分にマッチングできる業務は多く存在します。適切な職域開拓や業務設計を行えば、無理なく戦力として活躍できる障害者の方々は少なくありません。
不安を感じる原因の多くは、情報不足と経験不足にあります。
障害者雇用を進めるうえで必要な支援制度や助成金の存在を知らない、
障害特性への理解がない、
合理的配慮とは何かが曖昧
……こうした状態で進めようとすれば、当然ながら不安ばかりが大きくなってしまいます。
しかし、正しい知識を身につけ、適切なサポート体制を整えることで、障害者雇用は企業にとっての「重荷」ではなく「新たな価値創造」につながる可能性を秘めているのです。
〇東京都近県でも見られる「重荷」と感じる企業の実情
東京都とその近県、すなわち神奈川、千葉、埼玉といった首都圏エリアでは、多くの企業が集積しており、当然ながら障害者雇用を求められる企業の数も多くなっています。大企業のみならず、従業員50人未満の中小企業も多数存在し、障害者雇用に頭を悩ませるケースは少なくありません。
特に中小企業の場合、リソースの限界が直結するため、
「障害者雇用を進めたいが、どうしたらいいか分からない」
「配慮しすぎてほかの従業員への影響が心配」
という悩みが現場では日常的に聞かれます。
ある東京都内の建設業の事例では、障害者雇用に取り組む意思はあるものの、現場仕事が中心のため適切な職域が見つからず、採用に踏み切れないというケースがありました。
このような場合、軽作業や事務サポート職を新たに創出する工夫が求められますが、そもそも「そうした解決策がある」という発想自体に至らないことも多いのです。
また、法定雇用率未達成により、東京都では「障害者雇用納付金制度」が適用される企業も存在します。本来ならば納付金を支払う代わりに、助成金を活用して環境整備や支援体制構築に充てる道も選べるのに、その情報が浸透しておらず、結果的に「損をしている」ケースも少なくありません。
さらに、首都圏特有の課題として、人材の流動性の高さも障害者雇用の定着を難しくしています。
職場定着支援のためのフォローアップが不十分な場合、せっかく採用した障害者が短期間で離職してしまい、「やっぱり難しかった」という印象を企業側に与えてしまうリスクもあります。
このように、東京都近県では「障害者雇用=重荷」という印象が単なる思い込みではなく、具体的な事情や環境によって助長されていることが少なくありません。だからこそ、単に義務だからと進めるのではなく、企業ごとに最適な支援策や仕組みを整えることが重要なのです。
〇社会保険労務士の立場から見える選択肢の重要性
障害者雇用に悩む企業にとって、社会保険労務士は重要なパートナーとなり得ます。
私たち社労士は、雇用関連の法令知識だけでなく、助成金制度の活用方法、労務管理の実務、就業規則の整備支援など、企業が直面する現実的な課題に即したアドバイスを提供する立場にあります。
特に東京都近県では、行政や障害者就労支援機関とのネットワークが豊富にあり、これらを適切に紹介・連携できることも社労士ならではの強みです。
例えば、「障害者職業センター」や「地域障害者職業センター」と連携しながら、障害者向けのジョブコーチ支援を活用することも可能ですし、「特例子会社」設立の相談にも対応できます。
また、職場定着支援のための社内体制整備
――たとえば「障害者雇用推進担当者」の設置や、合理的配慮を明文化したマニュアル整備も、社労士が主導して進めることができます。
このように、多様な「選択肢」を提示し、それぞれの企業にとって最適な障害者雇用モデルを一緒に考えることができるのが、社会保険労務士の役割です。
企業が「知らなかった」「できると思わなかった」と思い込んでいた壁を取り除き、無理なく、そして前向きに障害者雇用に取り組めるよう支援すること。
これが私たち社労士に求められている使命だと感じています。
障害者雇用においては、完璧な対応を最初から求める必要はありません。
大切なのは、「知ること」「相談すること」「一歩踏み出すこと」。
選択肢を知れば、障害者雇用は「重荷」ではなく、「組織の成長のチャンス」へと変わっていくのです。