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LINEヤフーの生成AI活用に学ぶ「未来に耐える人事制度」の設計思想——属人性を排除し、構造で勝つ時代へ

効率化だけでは終わらない、生成AI活用の本質

2026年2月、LINEヤフー株式会社が人事総務領域における生成AI活用の本格展開を発表しました。月間約1,600時間の工数削減を見込むこの施策は、一見すると「効率化」を目的としたDX推進のように見えます。

しかし、この取り組みの本質は別のところにあります。それは、人事制度を「属人性に依存しない構造」として再設計する試みです。

私は社会保険労務士として、多くの企業の人事制度設計に関わってきました。その経験から断言できるのは、**人の善意や能力に依存した制度は、長期的に必ず破綻する**ということです。

LINEヤフーの事例は、生成AIという道具を使いながら、どのように「未来に耐える組織基盤」をつくるかを示しています。本記事では、この取り組みを人事制度設計の視点から深く考察します。

〇 生成AI活用の全体像:10のツールが示す「構造設計」の意図

LINEヤフーが2026年春までに運用開始する生成AI活用ツールは、以下のような領域をカバーしています。

– 採用戦略検討のためのデータ整理支援
– AI自律型面接官トレーニング
– 面接日程調整の自動化
– スケジュール管理の効率化
– キャリア自律支援AI
– 社内公募活性化AI

これらを見ると、単なる「業務効率化ツール」ではなく、**採用から育成、キャリア形成まで、人事の主要機能を横断する構造的な取り組み**であることがわかります。

特に注目すべきは、「キャリア自律支援AI」と「社内公募活性化AI」です。これらは、従業員が自分でキャリアを考え、行動できる環境を「仕組み」として提供しています。

〇 属人性の排除:人の善意に依存しない制度設計の重要性

・ 従来の人事制度が抱える構造的欠陥

多くの企業で、キャリア支援は「上司との1on1」や「人事担当者への相談」といった、属人的なコミュニケーションに依存しています。

しかし、この構造には明確な限界があります。

– 上司が忙しければ、十分な時間が取れない
– 上司の経験や視野の範囲内でしか、アドバイスができない
– 人事担当者が交代すれば、支援の質が変わる
– 従業員側も、相談しやすい人・しにくい人がいる

つまり、制度の実効性が「人の能力」や「関係性」に左右されるのです。これは、未来に耐える設計ではありません。

・ LINEヤフーが実装した「構造としてのキャリア支援」

LINEヤフーのキャリア自律支援AIは、この属人性を排除しています。

従業員が自分の経験や関心を入力すると、AIが社内の公募ポジション情報を横断的に参照し、条件に合う職務を整理・提示します。この仕組みには、以下の利点があります。

1. 誰もが平等にアクセスできる:上司や人事担当者の能力・時間に依存しない
2. 網羅的な情報提供:人間の記憶や経験の範囲を超えた情報を参照できる
3. 24時間利用可能:従業員が自分のタイミングで何度でも使える
4. バイアスの低減:人間関係や印象に左右されない情報提供

これは、制度を「道具」として設計するという発想です。人の善意や能力に期待するのではなく、仕組みで担保する。この考え方こそが、持続可能な組織をつくる基盤となります。

〇 「道具」としてのAI:結果責任を放棄しない設計思想

・ AIに丸投げしない、責任倫理の実践

LINEヤフーの取り組みで特に評価すべきは、以下の方針を明示している点です。

> 「生成AIは業務を補助するツールとして位置づけられ、出力は参考情報の一つとして扱い、最終的な判断・対応は必ず人が行っています。」

これは、生成AI活用における**結果責任倫理**の表れです。

AIは強力な道具ですが、それ自体が「正しい判断」を保証するわけではありません。重要なのは、その出力をどう解釈し、どう責任を持って判断するかです。

・ ガバナンス体制の整備:リスクベースの判断枠組み

LINEヤフーは、人事総務部門とAIガバナンス部門が連携し、業務内容や扱う情報、対象者への影響に応じて、リスクベースで利用範囲と運用方法を判断する枠組みを整備しています。

これは、「AIを使えば何でもできる」という楽観論ではなく、「AIをどう使うべきか」を冷静に判断する姿勢です。

– 社内ガイドラインの整備
– 周知・教育の実施
– 情報管理・セキュリティ面の統制
– 導入後の運用状況の継続的な確認・改善

これらの取り組みは、短期的には手間がかかります。しかし、未来に耐える組織をつくるためには、こうした「面倒な作業」こそが不可欠です。

〇 効率化の先にある本質:人事は「調整役」から「構造設計者」へ

・ 月間1,600時間削減が意味するもの

月間1,600時間の工数削減——これは単なる数字ではありません。この時間が生まれることで、人事担当者は何ができるようになるのか。それが本質的な問いです。

従来、人事の仕事の多くは「調整」でした。

– 面接日程の調整
– 応募書類の整理
– データの集計
– 問い合わせ対応

これらは重要な業務ですが、人事のコア業務ではありません。

本来、人事が向き合うべきは以下のような問いです。

– どんな評価制度が公平で、持続可能か
– どうすれば従業員が自律的にキャリアを考えられるか
– 組織が長期的に機能し続けるために、どんな構造が必要か

生成AIによる効率化は、人事が本来の役割である「構造設計者」に戻るための時間を生み出します。

・ 2026年、人事に求められる「覚悟」

生成AIを使っていないことが「弱点」と見なされる時代が来ると予測されています。しかし、本当のリスクは「使っていないこと」ではなく、「使いこなせていないこと」「責任を放棄すること」です。

AIは道具です。道具を使いこなすには、目的が明確でなければなりません。

– なぜこのツールを導入するのか
– 誰のために、何を実現したいのか
– 最終的な責任は誰が負うのか

これらの問いに答えられない状態でAIを導入すれば、結果的に組織を混乱させるだけです。

〇 評価制度設計への示唆:生成AIが変える「公平性」の担保方法

・ 面接品質の標準化:AI自律型面接官トレーニング

LINEヤフーが導入する「AI自律型面接官トレーニング」は、採用における公平性を担保する試みです。

従来、面接官のスキルは「OJT」や「経験」に依存していました。しかし、これでは面接官ごとにスキルレベルが異なり、評価のブレが生じます。

生成AIを活用したオンデマンド型の学習環境により、誰もが体系的に学習でき、模擬面接とフィードバックを通じて品質を底上げできるのです。

これは、評価制度設計における重要な原則を示しています。それは、評価の公平性は「評価者の善意」ではなく、「評価者を育てる仕組み」で担保されるということです。

・ データ整理支援:定性データの構造化による戦略精度の向上

採用戦略検討のためのデータ整理支援ツールは、アンケートなどの自由記述データを分類・ラベリングし、集計・可視化を効率化します。

従来、定性データの分析は「担当者の解釈」に依存していました。しかし生成AIを活用することで、大量のデータを構造化し、パターンを抽出できるようになります。

重要なのは、「得られた結果は、人による分析と併せて検証しながら活用する」という姿勢です。AIの出力を鵜呑みにせず、人間が最終的な判断を下す——この責任倫理が、未来に耐える組織の条件です。

〇 エンゲージメント向上への応用:従業員体験を設計する視点

・ 社内公募活性化AI:挑戦のハードルを下げる構造

社内公募活性化AIは、従業員が簡単なメモや箇条書きで入力した職務経験をもとに、AIが対話を通じて内容を整理し、社内公募に適した職務経歴文を作成します。

これは、「挑戦したいけど、書類作成が面倒」という心理的ハードルを構造的に解消する試みです。

エンゲージメント向上施策の多くは、「従業員の意識を変えよう」とします。しかし、意識を変えることは困難であり、属人的です。

それよりも、「行動しやすい構造」をつくることの方が、はるかに効果的です。

・ 従業員体験(EX)の設計:感情ではなく構造で支える

従業員エンゲージメント向上を考えるとき、多くの企業は「コミュニケーションを増やそう」「イベントを開催しよう」といった施策に走ります。

しかし、これらは一時的な効果しか生まないことが多いのです。

本質的なエンゲージメント向上は、従業員が「この組織では、自分のキャリアを自分で切り開ける」と実感できる構造を提供することです。

LINEヤフーの取り組みは、まさにその設計思想を体現しています。

〇 生成AI導入時の注意点:失敗しないための3つの原則

原則1:目的を明確にする

「AIを使うこと」が目的になってはいけません。

– 何を実現したいのか
– 誰のための施策なのか
– どんな未来をつくりたいのか

これらが明確でなければ、どんなツールを導入しても意味がありません。

原則2:責任の所在を明確にする

AIの出力は参考情報です。最終判断は人が行い、その結果に責任を持つ。この原則を曖昧にしてはいけません。

原則3:段階的に導入し、検証を繰り返す

LINEヤフーは、2025年7月から段階的にAI活用を進め、2026年春にかけてさらに拡大しています。

一気に導入するのではなく、**小さく始めて検証し、改善を重ねる**——この姿勢が、持続可能な導入を可能にします。

## おわりに:未来に耐える組織をつくる覚悟

LINEヤフーの生成AI活用は、単なる効率化施策ではありません。それは、**属人性を排除し、誰もが公平に機会を得られる構造をつくる試み**です。

人事制度の本質は、「人の善意」に期待することではなく、善意がなくても機能する仕組みをつくることです。上司が忙しくても、担当者が交代しても、組織が機能し続ける——そのための構造を設計することが、プロフェッショナルとしての責任です。

2026年は、人事が「調整役」から「構造設計者」へと進化する転換点となるでしょう。

生成AIは、その進化を加速させる強力な道具です。しかし、道具を使いこなすには、明確な目的と、結果責任を引き受ける覚悟が必要です。

短期的な称賛より、長期的に壊れない選択を取ること。嫌われることを恐れず、未来に責任を持つこと。それが、これからの人事に求められる姿勢だと、私は考えています。

**参考記事**
LINEヤフー株式会社「人事総務業務の効率化に加え、従業員の自律的なキャリア形成の支援等に活用。月間約1,600時間以上の部門における工数削減を見込む」
https://www.lycorp.co.jp/ja/news/release/020104/

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