労務経営ブログ
解雇に向けた記録整備の基本とは?
従業員の解雇は企業にとって最も慎重を要する労務判断のひとつです。たとえ問題行動があったとしても、法的に「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」が認められなければ、不当解雇と判断される可能性があります。こうしたトラブルを避けるには、普段からの「記録整備」が不可欠です。
ここでは、問題行動に対する記録の取り方や、指導履歴・業績評価の文書化について、実務で活用できる具体的な方法と注意点を解説します。
〇問題行動の記録方法と注意点
問題行動とは、遅刻・欠勤・業務命令違反・職場内でのトラブル・顧客対応の不備など、就業規則に反する行為や職場秩序を乱す言動を指します。こうした行動が見られた場合、企業としてはただちに注意を行い、その都度記録を残すことが求められます。
■記録すべき基本情報:
・問題行動が発生した「日時・場所」
・問題行動の「内容(事実関係)」
・行動を確認した「目撃者や関係者」
・企業としての「対応内容(口頭注意・文書指導など)」
・当該従業員の「反応や返答内容」
これらを漏れなく記録し、文書として保管しておくことが重要です。形式は、業務日報、業務報告書、注意書面、メール履歴などさまざまですが、第三者にも理解できる客観的な文書である必要があります。
■注意点:
1.感情的・主観的な表現は避ける
たとえば「態度が悪い」など曖昧な記述ではなく、「業務報告を求めた際、無言で無視をした」など具体的な行動を記述しましょう。
2.継続的に記録を取る
1度きりの行動で即解雇が認められることはほとんどありません。繰り返しの問題行動を継続的に記録し、「改善の余地があったにもかかわらず本人が応じなかった」ことを示す必要があります。
3.就業規則との整合性を保つ
企業が定める就業規則で「どのような行動が懲戒の対象となるのか」を明示し、それに基づいた記録であることが望まれます。規則との照合が曖昧な場合、懲戒や解雇の正当性が疑われます。
〇指導履歴や業績評価の適切な文書化方法
解雇の正当性を主張する際、問題行動の記録だけでは不十分です。指導を行った経緯や、改善の機会が与えられていたこと、業務能力の評価がどうだったかといった履歴も必要になります。これは「解雇が最終手段であったこと」を示すために不可欠です。
■指導履歴の記録方法:
・面談記録:日付、指導者、対象者、指導内容、本人の返答、改善の有無などを記載。
・指導書面:注意文書、始末書、改善報告書などを書面でやり取りし、双方が署名して保管する。
・メールやチャットの記録:社内コミュニケーションツールを用いて注意喚起を行った場合、その記録も証拠として活用可能。
■業績評価の文書化:
・定期的な人事評価:半年ごと・年ごとに職務遂行能力、業務成果、協調性などを数値化または文章で記録。
・上司によるコメント:評価の裏付けとなる具体的なエピソードや事実に基づいた記載。
・評価の一貫性:評価が感情や人間関係に左右されず、客観的基準に沿っていることが大切です。
■よくある失敗と対策:
1.記録が偏っている(特定の問題だけ強調されている)
→ 日常的な評価や良い点も併記し、「公平な視点」であることを示しましょう。
2.評価の基準があいまいで、他の社員との比較が困難
→ 評価シートを用いて標準化し、複数人でレビューを行う体制を整備することが望ましいです。
3.フィードバックの記録がない
→ 本人と共有し、改善を促す文書(改善指導計画など)を活用しましょう。
問題社員への対応は、「記録整備」が鍵を握ります。単に事実を残すだけでなく、改善のための努力を示し、それでも改善が見られなかった場合にのみ「最終手段としての解雇」が認められるのです。東京都近県の企業では特に労働者の権利意識が高まっており、企業側は文書化による防衛を意識しなければなりません。
社会保険労務士としては、こうした記録作成の指導、就業規則の整備、解雇リスクの事前相談などを通じて、企業の安全な人事対応を支援しています。正しく記録を残し、正当な手続きを踏むことで、企業と従業員の双方が納得できる関係性を築くことが可能になります。