労務経営ブログ
障害者雇用を考える企業が見落としている3つの選択肢
障害者雇用に取り組む際、多くの企業は「うちには無理だ」「どうすればいいか分からない」と不安を抱えています。しかし、実際には企業が見落としている“選択肢”がいくつも存在します。それらを知り、適切に活用することで、障害者雇用の負担感は大きく軽減され、むしろ企業の成長に寄与する力となり得ます。
ここでは、社会保険労務士の視点から、特に有効な「3つの選択肢」について解説します。
〇選択肢① 支援制度の活用(助成金・相談窓口)
障害者雇用に取り組む企業にとって、まず真っ先に検討すべきなのが「支援制度の活用」です。東京都近県では、国や地方自治体がさまざまな支援策を用意しており、これらを知らずに自力だけで取り組もうとするのは非常にもったいない話です。
1.助成金制度の活用
たとえば、「特定求職者雇用開発助成金」などは、障害者を雇用した企業に対して、賃金や雇用継続のための費用補助を行っています。これにより、初期コストの負担を大きく減らすことが可能です。
・特定求職者雇用開発助成金
→ 障害者を初めて雇用する企業に対して支給される助成金。最大で数十万円~100万円以上の支給を受けることも可能です。
これらの制度は条件が細かいため、社労士など専門家のサポートを受けながら申請手続きを進めるのがおすすめです。
2.公的相談窓口の活用
さらに、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県には、それぞれ「地域障害者職業センター」や「障害者就業・生活支援センター」といった専門窓口が存在します。ここでは、障害者雇用に関する相談、ジョブコーチ支援、マッチング支援などが受けられます。すべて無料で利用できるため、特に中小企業は積極的に活用するべきです。
これらの支援策を利用することで、「障害者雇用=負担」という感覚は大きく変わり、「利用できるものを活用して、無理なく進める」スタイルが実現できるのです。
〇選択肢② 外部専門家の活用(就労移行支援・社労士との連携)
障害者雇用を社内だけで完結させようとすると、どうしても限界が出てきます。そこで重要なのが、外部専門家の力を借りることです。
◆ 就労移行支援事業所の活用
「就労移行支援事業所」とは、障害のある方に就職訓練を行い、一般企業への就職を支援する福祉サービス機関です。東京都近県には多数存在し、障害者側に対して就労準備訓練を行ったうえで、企業にマッチした人材を紹介してくれます。
・求人ニーズに合った人材の紹介
・事前面談・業務トライアルの実施
・定着支援(就職後のフォローアップ)
これらを通じて、企業は「適性が合うか分からない」というリスクを最小限に抑えながら採用活動を進められます。さらに、採用後も支援員が間に入るため、現場負担も軽減されるメリットがあります。
◆ 社会保険労務士との連携
また、障害者雇用における法令遵守や労務リスク対応には、社会保険労務士(社労士)のサポートが不可欠です。社労士は、障害者雇用に関する各種制度案内だけでなく、以下のような支援も行います。
・雇用契約書、就業規則の整備(合理的配慮規定の明文化)
・助成金申請サポート
・雇用管理マニュアルの作成
・障害者雇用に関する社内研修の実施
障害者雇用に関する制度変更は頻繁に行われているため、専門家と連携することで最新情報に対応し、リスクを最小限にすることが可能になります。
〇選択肢③ 配慮ではなく戦力にする職場づくりの工夫
障害者雇用を「負担」と感じる最大の要因は、「特別扱いをしなければいけない」という先入観にあります。しかし、実際には「過剰な配慮」ではなく、「適切な役割を持たせ、戦力化する」視点が重要です。
◆ 業務設計の工夫
障害者に任せる業務を最初から「軽作業だけ」と決めつける必要はありません。個々の障害特性やスキルをよく見極め、本人に合った業務を設計することで、驚くほど高いパフォーマンスを発揮するケースもあります。
たとえば:
・ADHD傾向のある方が、クリエイティブな発想力を活かして企画業務に貢献
・聴覚障害のある方が、集中力を活かしてデータ入力業務で高精度の作業を実現
・知的障害のある方が、決まった作業をミスなく繰り返すことで品質管理に貢献
「できないこと」ではなく「できること」に注目し、業務の切り出し・割り当てを工夫するだけで、戦力化は十分に可能です。
◆ 職場環境の工夫
また、障害者に限らず、誰にとっても働きやすい職場づくり(ユニバーサルデザイン)を意識することが重要です。たとえば:
・作業手順をマニュアル化して、誰でも分かりやすく
・コミュニケーションツール(チャット・ホワイトボード)を導入
・定期的な面談やフィードバックの実施
このような取り組みは、障害者に限らず、すべての従業員の働きやすさ向上にもつながります。実際、障害者雇用に取り組んだ企業の多くが、「職場全体の雰囲気がよくなった」「社員同士の理解が深まった」とポジティブな変化を感じています。
〇まとめ
障害者雇用は、決して「重荷」ではありません。
企業が見落としがちな「支援制度の活用」「外部専門家との連携」「戦力化の視点」を取り入れることで、障害者雇用は企業にとって新たな成長エンジンになり得ます。
社会保険労務士は、こうした選択肢を分かりやすく提案し、企業の現場に合った障害者雇用の実現をサポートしています。
もし、障害者雇用に関して少しでも不安があるなら、ぜひ一度、専門家に相談してみてください。選択肢を知ることが、最初の大きな一歩となるはずです。