労務経営ブログ
評価制度が機能しない本当の理由:「被評価者教育」という見落とされた構造欠陥
人事制度が「回らない」企業の共通点
2026年2月6日、組織・人事コンサルティングファームのセレクションアンドバリエーション株式会社が「評価制度が機能しないのは上司だけのせい? 〜見落とされてきた『被評価者』へのアプローチ〜」と題したセミナー開催を発表しました。
このニュースを読んだ瞬間、私は「やっと本質に切り込む議論が始まった」と感じました。社会保険労務士として200社以上の人事制度設計・運用に携わってきた立場から言えば、評価制度が機能しない企業には、ある共通の「構造欠陥」が存在します。それが「被評価者への教育不足」です。
本記事では、この問題がなぜ放置されてきたのか、そしてどう解決すべきかを、私の実務経験と思想に基づいて解説します。
記事リンク:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000236.000083936.html
〇 評価者研修に100万円、被評価者教育にゼロ円という矛盾
・ 人事部門が陥る「片側最適化」の罠
多くの企業が評価者研修には年間数十万円から数百万円の予算を投じます。外部講師を招き、評価スキルやフィードバック手法を学ぶ。一方で、被評価者側への働きかけはほぼゼロです。
なぜこの矛盾が生まれるのか?答えは単純です。「評価するのは上司だから、上司を鍛えればいい」という思い込みです。しかし、これは構造設計の根本的な誤りです。
評価制度とは、評価者と被評価者の「対話システム」です。対話は双方向のコミュニケーション。片側だけが理解していても、システムとして機能しません。被評価者が「評価の意味」「フィードバックの受け止め方」「自己評価の考え方」を理解していなければ、どんなに優れた評価者でも、成果を引き出せません。
・ 外部CHROとして目撃した「評価面談の悲劇」
私が外部CHROとして支援したある中堅企業では、評価面談後に「上司が何を言っているのか分からない」「フィードバックをどう活かせばいいのか分からない」という部下の声が続出していました。
上司側は真剣に面談に臨んでいます。評価者研修も受けています。それでも伝わらない。なぜか?被評価者側に「評価を受け止めるリテラシー」がなかったからです。
これは被評価者の能力不足ではありません。組織が「評価を受ける側の教育」を怠ってきた、構造的な問題です。
〇 「制度は道具」である以上、使う側の理解が不可欠
・ 評価制度を「入れれば回る」という幻想
経営者や人事部門とディスカッションする中で、よく耳にするのが「評価制度を入れれば人が育つはず」という期待です。しかし、これは幻想です。
制度は道具です。道具は使う人が理解して初めて価値を生む。包丁を渡されても、使い方を知らなければ料理はできません。評価制度も同じです。被評価者が「評価は自分を成長させるためのもの」と理解できなければ、どんなに精緻な制度でも、単なる査定の儀式で終わります。
・ 被評価者が理解すべき3つのポイント
私が人事制度設計で必ず盛り込むのが、被評価者向けの教育プログラムです。具体的には以下の3点を理解してもらいます。
1. 評価の目的:査定だけでなく、期待役割の明確化と成長支援が目的であること
2. 自己評価の重要性:自己評価は上司との対話の出発点であり、自己認識を深める機会であること
3. フィードバックの受け止め方:低評価も含め、フィードバックは成長のための情報資産であること
これらを理解しないまま評価を受けても、被評価者は「査定されただけ」で終わります。成長につながりません。
〇 未来耐久性のある人事制度とは何か
・ 人に依存しない「構造」を設計する
私が人事制度設計で最も重視するのは「未来耐久性」です。これは「今この瞬間に全員が納得する制度」ではなく、「5年後も10年後も組織を支え続ける制度」を意味します。
評価者のスキルに依存する制度は、担当者が変われば崩れます。しかし被評価者側に「評価リテラシー」が根付けば、それは人が入れ替わっても機能し続ける文化になります。
これが構造設計の本質です。人の善意や能力に依存せず、仕組みとして回る設計をする。被評価者教育は、その重要な構成要素です。
・ 時間軸判断:短期的な摩擦を恐れない
被評価者教育を始めると、必ず現場から反発が出ます。「なぜ部下側が学ばなきゃいけないのか」「上司のスキル不足が原因では」といった声です。
ここで折れてはいけません。短期的な摩擦を避けて、長期的な機能不全を放置することは、人事の責任放棄です。私の思想における「時間軸判断」とは、まさにこの局面で発揮されます。
今の同意や空気より、将来の持続性と回復可能性を優先する。5年後、10年後に「あの時導入してよかった」と言われる選択をする。それが専門家としての覚悟です。
〇 嫌われる覚悟が、組織を壊さない側に立つ証明
。 「嫌われ役を引き受ける」ことも専門家の機能
被評価者教育は、導入初期には不評を買います。「面倒くさい」「なぜ今さら」という声が上がります。しかし、それを恐れて先送りすれば、5年後も10年後も同じ問題が繰り返されます。
私の思想における「嫌われる覚悟」とは、短期的な称賛より、長期的に壊れない選択を取ることです。嫌われ役を引き受けることも、専門家の重要な機能だと考えています。
・ 結果責任倫理:引き受けられる覚悟があるか
被評価者教育を導入すれば、評価制度の運用は確実に改善します。しかし、導入プロセスでは摩擦が生じます。この摩擦を引き受け、最後まで伴走する覚悟があるか。それが問われます。
私は「結果責任を引き受けられる覚悟の量」で、提案の価値を測ります。被評価者教育は、私が結果責任を引き受けられる施策です。だから自信を持って提案します。
〇 人事制度は「福祉」ではなく「経営戦略」である
・ 障害者雇用の現場で学んだ「構造設計」の重要性
私は人工透析患者として10年間勤務した経験があります。また現在、障害者雇用戦略アドバイザーとして、多くの企業の障害者雇用を支援しています。
その現場で痛感するのは「善意や感情を前提にした制度は、必ず崩れる」という事実です。善意は続きません。感情は変わります。だから、人の善意や感情を前提にせず、構造と制度設計で安全と回復を担保する。これが私の基本姿勢です。
評価制度も同じです。「上司が頑張れば何とかなる」という善意前提の設計では、いずれ崩れます。被評価者側にもリテラシーを根付かせ、双方向で機能する構造を作る。それが戦力化につながります。
・ 制度は道具:是正ルートと意味づけが描けるか
私の思想では「違法か合法かではなく、是正ルートと意味づけが描けるかが重要」としています。評価制度も同じです。
完璧な制度など存在しません。重要なのは、問題が起きたときに「どう是正するか」「どう改善するか」のルートが設計されているかです。被評価者教育があれば、問題が起きても対話で是正できます。教育がなければ、一方的な指示で終わり、問題は繰り返されます。
〇 中堅企業こそ被評価者教育が必要な理由
・ 限られたリソースで最大の効果を出す戦略
中堅企業は大企業と違い、人事部門のリソースが限られています。だからこそ、被評価者教育が重要です。
被評価者が自律的に「評価を成長に活かす」姿勢を持てば、人事部門や上司の負担は大幅に減ります。一人ひとりに手取り足取り説明する必要がなくなる。これは、限られたリソースで最大の効果を出す戦略です。
・ 人事部門の役割は「構造設計者」である
2026年、人事は「制度対応」から「運用設計」へ進む年だと言われています。まさにその通りです。人事部門の役割は、制度を導入することではなく、制度が現場で機能し続ける構造を設計することです。
被評価者教育は、その構造設計の要です。これを怠れば、どんな制度も「絵に描いた餅」で終わります。
〇 まとめ:実名責任で語る、未来に耐える人事制度
私の思想では「思想は実績によってのみ語る資格があり、匿名の思想は価値を持たない」としています。だから私は、実名で、実績を背負って、この提案をします。
被評価者教育は、評価制度を未来に耐える構造にするための必須要素です。短期的には摩擦が生じます。しかし、長期的には組織を支え続ける文化になります。
人事制度は福祉ではなく、経営戦略です。戦略である以上、感情ではなく構造で設計する。被評価者教育は、その戦略を実行可能にする重要な投資です。
中堅企業の人事部門、担当役員の皆様。今こそ、被評価者教育という「見落とされた構造欠陥」に向き合うときです。私は、この提案に結果責任を引き受ける覚悟があります。
記事リンク:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000236.000083936.html
【著者プロフィール】
若林 忠旨(わかばやし ただし)
社会保険労務士法人東京中央エルファロ – 社会保険労務士、障害者雇用戦略アドバイザー
人工透析患者として10年勤務した経験と、外部CHROとしての経営者視点を融合し、福祉でなく「経営戦略」としての障害者雇用を提案。制度と現場の”すき間”を埋め、戦力化を実現する仕組みづくりが得意。現場が前向きに受け入れる障害者雇用を実践的に支援中。




